「水使いの森」 水の魔法をめぐる王道ファンタジー

「水使いの森」
著者:庵野ゆき

王国モノと師弟子モノを合わせたような話の内容だった。本来であれば一冊では収まりきらなかったのではないだろうかと思われるほどのストーリーだが、綺麗に一冊にまとまっていて素晴らしいなと思った。また、視点もいくつかに分かれるのだが、迷うことなく読める点も良かった。

魔法といった言葉は出てこないが、水丹術とか風丹術とかそういった名前でしっかりと魔法というものが存在している。タイトルから察することができるように水丹術がこの物語の中で重要な役割を果たしている。この魔法が人々の生活の中に溶け込んでいる作品はやはり面白い。

水蜘蛛族なる独特の種族が出てくるのだが、私の想像力が及ばず水蜘蛛族の男性の姿がどうしても上手く思い浮かべられなかったのが悔しい。水蜘蛛族の女性は普通の人々と同じ姿をしているようだ。

王道ファンタジーかつ妖怪とかが出てくるわけでもない、それなのにどこかしら日本を感じさせる点もあった。どうしてだか分からないけど、多分ではあるが食べ物や着物が日本文化に沿って書かれているからだと思う。

この物語で主人公は誰と訊かれると大変困る。登場人物紹介の欄からミイア王女であると推定できるのだが、タータやハマーヌも主人公に見えて仕方がない。やはり、この物語は本来は一冊では終わってはいけなかったのだろう。それでも物語の構造がしっかりして良い作品であることは間違いないと思う。