「鵜野森町あやかし奇譚」 とても良い内容だけど読むのは切なく辛かった

「鵜野森町あやかし奇譚」
著者:あきみずいつき

主人公とヒロイン、それぞれの心の怪我というか本来あるべき心の状態からの欠如といった方が良いのか。それから回復するまでの話であり、ポップに描かれているのに反して重い内容を扱っている。

主人公である朝霧夢路とヒロイン日野咲の心の回復に重要な役割を果たすのは、この物語をファンタジーとして確立させている猫の霊獣サクラである。

心の問題とは見づらく、読者に分かりづらいという問題があるが、この話ではそこに妖が巣食う様を描写して具現化しているのだと思う。ヒロインの心の闇を餌にして巣食い悪さをする悪い妖。それに立ち向かう様とヒロイン自身が自らの心の問題に立ち向かおうとするさま、それを助けることをしつつ自分の心の在り方を取り戻していく主人公。これらが合わさる事でとても分かりやすく心の変化や回復を読み解くことができるようになっているのだと思う。

また、自身の抱える心の問題に自ら立ち向かっていくことを決意する主人公とヒロインは素晴らしいと思えた。なにせ、やはり自身の心に最終的に手を出せるのは自らなのだから。確かに周りの手助けも必要なことはある。そうではあるが、ことを成すためには自ら動けということと他者を変えることは超絶的に難しいということを踏まえてである。

とても面白い内容だったが、読むのには大変苦労した。いちいち心の古傷をえぐられるようだった。私は心にナイフが突き刺さったままなのだ。あまりここでこのことについてグダグダ話すことはしないが、私は助けの来なかった心の負傷者である。だから、強い傷を負いながらも自ら動くしかなかった。お陰様で鬱病も経験したしね。

最近鬱病に関する観察記を付けようと思っていたのだが、その最終トリガーを引いたのはこの物語だと思う。やはりこの物語は思い。しばらく棚にしまっておきたい。次に読むときはもう少し安定した心地で読みたい。そうできればよいな。